あきめくら共めがッ、この眉間の三日月形が・・・って、愛と誠かよっ

「あきめくら共めがッ、この眉間の三日月形が分らぬかッ」

「………?!」

「よよッ」

「………!」

「分ったら行けッ」

「早乙女の御前とは知らず、お庭先をお騒がせ仕って恐れ入ってござります。なれ共、それなる下郎はちと不審の廉(かど)あって召捕らねばならぬ者、役儀に免じてお下げ渡し願われますれば仕合せにござります」

「では、行けと申すに行かぬつもりかツ」

「はは、申しおくれましてござりまするが、拙者は北町奉行所配下の同心、杉浦権之兵衛と申しまする端役者(はやくもの)、役儀に免じて手前の手柄におさせ願われますれば、身の冥加(みょうが)にござります」

「ならば行けッ。無役なりとも天下お直参の旗本じゃ。上将軍よりのお手判(てはん)お差紙(さしがみ)でもを持参ならば格別、さもなくばたとい奉行本人が参ったとて、指一本指さるる主水之介[#「主水之介」は底本では「主水介」と誤植]ではない。ましてやその方ごとき不浄端(は)役人に予が身寄りの者引き立てらるる節はないわッ。行けッ、下がれッ」

「えッ。では、それなる下郎、御前の御身寄りじゃと申さるるのでござりまするか!」

「言うが迄もない事じゃ。当屋敷の内におらば即ち躬(み)が家臣も同然、下がれッ、行けッ」
 口惜しがって地団駄踏んでいましたが、鳶の巣山初陣が自慢の大久保彦左以来、天下の大老老中とても滅多な事では指を触れることの出来ない、直参旗本の威厳が物を言うのでしたから、まことに止むをえないことでした。


「………!」

「………!」